本日は、翻訳家 谷口 由美子さんによります「茶論トーク 英米児童文学の楽しみ」を開催致しました。
参加くださいました皆さま、ありがとうございます。

本日、谷口さんがご紹介下さいましたのは、「大草原の小さな家」で有名なローラ・インガルス・ワイルダーの著作シリーズの中でも、谷口さんが訳された「長い冬」以降のお話でした。
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この「茶論トーク」の第一回目でも紹介ありましたように、ローラの著作シリーズはローラが子供の頃から結婚して家庭を持って以降まで、それぞれの時代を描いた自伝的作品が10作品あります。
日本で最初に翻訳本を担当されたのは石田アヤさんです。
昭和の戦後、GHQの翻訳許可本の中にローラ・シリーズも含まれていました。
石田アヤさんはローラ・シリーズのすべてをご存知でしたが、最初に翻訳本を出されたのは1作目ではなく、この6作目にあたる「長い冬」でした。
「長い冬」が文学的にも大傑作だった、ということもあるでしょうが、21年ごとに訪れる7ヶ月にも及ぶ冬を耐え忍んだ様子が描かれたこの作品は、戦争という時期を過ごして明けた日本の子供たちに伝えたかったということもあったのではないか、と谷口さんはおっしゃいます。

翻訳本を出すにあたり、石田アヤさんが当時まだ健在だったローラに
「日本の子どもたちにメッセージをお願いします」
と依頼すると、ローラはすぐに送ってきてくれたそうです。
そしてそのメッセージは日本語に訳されて本に記載されました。それもローラの住所も載せた形で。

この「長い冬」を読んで感動した日本人の中には、実際にローラに感動を伝える手紙を書き、そしてローラから実際に返事の手紙を頂いた方もいらっしゃいます。
その方のエピソードもご紹介いただきました。

「長い冬」の中には、ローラが父さんから「自由」について教えられる場面があります。
アメリカに根付く「自由」という思想が理解できる点でもこの作品は一読の価値があります。

茶論トークの後半では、谷口さんとヴァイオリニストの方、そしてピアニストの方3名で編成・活動している「大草原の風トリオ」のライヴ映像を視聴しました。
ローラの著作の中では、父さんがヴァイオリンで演奏してくれた曲名が良く出てきます。
その曲を実際に聴くことで、曲名という目からの情報だけでなく、なぜその時にその曲が演奏されたのか?という音の情報も加わることで、より本の魅力が広がります。
本の場面と、演奏のコラボレーション活動を行っているのが「大草原の風トリオ」です。

今回の茶論トークでは、「長い冬」の出だしの訳の解説がありました。
「長い冬」は「The mowing machine's whirring sounded cheerfully ...」という、父さんが干草のための草刈をしているシーンの描写から始まります。
ここで「whirring」という単語は、今の辞書で引くと「ブィーーーン」といった擬音になります。
が、ローラの時代は電動ではありません。
ではどんな音だったのか?
それを実際に調べた結果の擬音で、谷口さんの「長い冬」の訳本は始まります。
それはどんな擬音か? はぜひ、実際に読んでみてください。

<おまけ>
ローラが日本の子供たちに宛てたメッセージはこんなメッセージでした。

親愛なる日本の子供たちに 

あなた方は遠い国に住み、ちがった言葉を話しても、それでも、人間の生きて行くうちに本当に値うちのある物事は、私が、ずっと前に子供であった時と同じく、私たちみんなにとって同じであると思います。
本当の値うちのある物事は、年月が過ぎても、一つの国から他の国にうつっても変わることはありません。そういうものは、きっとあなた方も持っていると思います。
いつも一番良いことは、正直で誠実であること、自分たちに与えられているものを充分にいかせて使うこと、小さな日常のよろこびで幸福だと感じること、苦しいときにも元気にしていて、危険なときに勇気を持つことです。
あなた方みんなに対する愛と、あなた方の幸福に対するこの上ない願いとをお送りします。 



心からなるあなた方の友        ローラ・インゴールス・ワイルダー 

一九四九年七月八日 アメリカ合衆国 ミズウリ州 マンスフィールド ロッキー・リッヂ農場